大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)2203号 判決

一、被控訴人は、右相互掛金契約においては契約上の債権の譲渡には被控訴人の承認を要する旨の特約があり、右は大蔵大臣に届出でられた結果控訴人においても知つているのであるから、右契約上の債権の差押は無効であると主張するけれども、旧国税徴収法第二十三条ノ一の規定による債権の差押は、単に国に対し、債権者に代位して従来の債権者の立場に立ち債権を取立て国税に充当できる権能を与えるに止まり、債権移転の効力を生ずるものではなく、債務者の地位は本来の債権者から債権の取立を受けるのと異なるところがないから、単に譲渡禁止の特約があるというだけの理由で国税徴収法による債権差押の効力を否定することはできない。

二、控訴人は、本件差押当時、受働債権たる本件差押債権はまだ弁済期になかつたから、双方の債権は相殺適状になく、従つて右相殺は無効であると主張する。右差押当時本件掛金返還請求権が弁済期になかつたことは明らかであるけれども、被控訴人の自働債権は当時既に弁済期が到来していたのであるから、被控訴人としては自己の債務についても弁済期の到来するを待ちこれと対当額につき相殺すべきことを期待するのが通常であり、かつ相殺をなし得べき利益を有するのであつて、この利益は法律上保護さるべきものであり、これを被控訴人の関係しない差押という事由によつて剥奪することは公平の理念に反するから、かような場合には被控訴人はなおその反対債権による相殺を以て控訴人に対抗することができるものと解すべきである。被控訴人のもつ右のような利益は、まだ相殺適状にない間のものであり、すべての場合を通じ一様に決しなければならないほど確定した法的地位には達していないから、それぞれの制度の趣旨との関連において合理的に考察されなければならないという控訴人の論旨は、抽象的には首肯するに足る見解であるけれども、自働債権の債権者の前記利益を債権譲渡の場合、一般強制執行による差押の場合及び国税徴収法による差押の場合の各場合毎に区別して考察し、一の場合にはこれを保護し他の場合にはこれを否定しなければならないとするような合理的理由はこれを見出し難い。

三、わが国の強制執行制度が金銭債権の執行につき平等主義を採つていることは控訴人主張のとおりであるけれども、これは差押債権者に特別の優先的地位を与えない趣旨であつて、一般債権者の他の債権者に対する優劣の関係は強制執行開始前たると開始後たるとによつて区別されないものであり、或る債権者が相殺によりその債権を消滅させることのできる法律上の利益が尊重すべきものであるとする以上、その必要の度は強制執行の前たると否とによつてこれを区別すべき理由なく、強制執行の平等主義を理由として自働債権の債権者を強制執行開始前より不利益な地位に置くことはできない。国税滞納処分も強制執行の一の場合と解すべきであるから、強制執行という点に即して考えるときは、これを右に述べるところと別異に解することはできない。国税が一定の条件の下に他の債権者に優先することは国税徴収法の定めるところであるけれども、それは執行の段階において競合債権者との間においてこれを認められるのであつて、そのため自働債権の債権者の実体法上の相殺権をも制限するような趣旨は国税徴収法の規定の体系の中からもこれを看取することは困難である。

(川喜多 小沢 位野木)

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